大判例

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最高裁判所第一小法廷 平成2年(行ツ)93号 判決

松山市馬木町七〇〇番地

上告人

井関農機株式会社

右代表者代表取締役

水田栄久

右訴訟代理人弁護士

安原正之

佐藤治隆

小林郁夫

東京都千代田区外神田四丁目七番二号

被上告人

株式会社佐竹製作所

右代表者代表取締役

佐竹利彦

右訴訟代理人弁護士

柏木薫

松浦康治

山下清兵衛

今井浩

柏木秀一

福井琢

長尾美夏子

右当事者間の東京高等裁判所昭和六二年(行ケ)第二二三号審決取消請求事件について、同裁判所が平成二年三月二二日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人安原正之、同佐藤治隆、同小林郁夫の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 角田禮次郎 裁判官 大内恒夫 裁判官 四ツ谷巖 裁判官 大堀誠一 裁判官 橋元四郎平)

(平成二年(行ツ)第九三号 上告人 井関農機株式会社)

上告代理人安原正之、同佐藤治隆、同小林郁夫の上告理由

原判決は、本件発明及び第一引用例(甲第五号証)、第二引用例(甲第六号証)の技術範囲の解釈を誤ったため、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令(特許法第七〇条)違背があり、その取消しを免れないものである。

一 原判決は、本件発明の「粗雑面」の構成につき、「粗い凹凸のある面」であることはその字義上明らかであるが、それ以上の限定的記載はない、と判示している(原判決一九丁表六行乃至九行)。

ついで本件発明の明細書の記載(甲第二号証三欄一九行乃至四欄五行)、甲第三号証、同第七号証及び乙第三号証の各記載を斟酌し、本件発明の「粗雑面」の穀粒選別過程における作用は、「選別盤の上向き行程において、盤面を形成する粗雑面で下層に沈下した穀物粒を支持し選別盤の動きに追随させることをその本来の機能とするものであり、したがって、これを形成する凹凸の形状も粗雑面に右機能を果たすための摩擦抵抗等を与え、かつ選別盤が下向き行程に復する際の前記穀物粒の離脱を妨げないような形状であれば足り、それ以上格別の構成を要するものでないこと明らかである」旨判示している(原判決二一丁二行乃至八行)。

二 本件発明の明細書及び甲第三号証を詳細に検討するに、本件発明の「粗雑面」が組い凹凸のある面であり、選別される穀粒に比しその凹凸の程度、形状、大きさ及び方向性の有無については、何等の限定もされていないこと、原判決が判示するとおりである。したがって本件発明の「粗雑面」の凹凸は、その形状、大ききの如何に拘わらず本件発明が有する作用の全てを奏するものと理解するべきである。

1 しかるに原判決は、本件発明の「粗雑面」につき無限定である旨判示しながら、その機能の説明において選別する穀粒の大きさとの関係を考察することなく、粗雑面の範囲を甲第三号証の実施例の図面に記載されている構造のものに制限し理解しているようである。

原判決は、穀物粒の選別機能につき「粗雑面」の作用として、下層に沈下した穀物粒を「支持」する機能即ち摩擦抵抗を与えかっ選別盤が下向き行程に復する際穀物粒の離脱を妨げないような形状であると、判示する。

まず粗雑面の機能として原判決が判示する「穀物粒を支持する」即ち摩擦抵抗という意味内容が不明である。

即ち本件発明の粗雑面の凹凸が、選別する穀物粒のどの部位に対しどのように支持し穀物粒に摩擦抵抗を与えるのか、何等合理的な説明をしていないものである。

2 そして選別盤の上向き行程において穀物粒を支持するという意味が、上向き行程の揺動の場合において、下層に沈下した穀物粒を選別盤面上に形成した粗雑面の凹凸による摩擦抵抗により反対方向への移動を阻止するという内容であれば、第一引用例(甲第五号証)の実施例として記載されている揺寄せ突起においても、本件発明の前記機能である「選別盤の上向き行程において下層に沈下した穀物粒を支持し、選別盤の動きに追随させる機能」を有するうえ、右機能を果たすための「摩擦抵抗を与え、かつ選別盤が下向き行程に復する際の穀物粒の離脱を妨げない」機能をも有していること次に述べるとおりである。

3 ここで選別する穀物粒の大きさと本件発明の粗雑面の凹凸形状及び第一引用例及び第二引用例の揺寄せ突起との関係につき比較検討すると以下のとおりである。

イ、まず粗雑面及び揺寄せ突起の形状が穀物粒より小さい場合には、粗雑面と穀物粒との関係は別紙参考図第1図(A)乃至(C)に示すようになり、又揺寄せ突起と穀物粒との関係は参考図第2図(A)乃至(C)に示すようになって(なお、図中矢印は選別盤又は流樋の運動の方向を示す。以下の図も同じ)、粗雑面を形成する凹凸形状及び揺寄せ突起何れのものも、その上面で穀物粒の下面を接触支持した状態となり、両者共に原判決が判示する「選別盤の上向き行程において下層に沈下した穀物粒に摩擦抵抗等を与えて支持して選別盤の動きに追従させる機能を果たし、且つ選別盤が下向き行程に服する際に、前記穀物粒の離脱を妨げない機能を果たす」ものである。

ロ 次ぎに粗雑面の凹凸形状及び揺寄せ突起の形状が、穀物粒より大きいか或は同等の大きさの場合には、粗雑面と穀物粒との関係は参考図第3図(A)乃至(C)に示すようになり、また揺寄せ突起と穀物粒との関係は参考図第4図(A)乃至(C)に示すようになる。

粗雑面の場合には、粗雑面を形成する凹部に穀物粒が入り込んで、凸部の横側面で穀物粒の側部が接触支持された状態となり、また揺寄せ突起の場合には、その頂端線が穀物粒の側面を接触支持し且穀物粒の下面を盤面で接触支持した状態となる。

そして粗雑面の場合参考図第3図(B)に示すように、選別盤の上向き行程において下層に沈下した穀物粒の側面を粗雑面の凸部の横側面で支持して選別盤の動きに穀物粒を追従させ、粗雑面の凹凸部で穀物粒を片寄せる機能を果たし、ついで選別盤が下向き行程に復する際には、参考図3図(C)のように穀物粒の離脱を妨げない状態となる。

また揺寄せ突起の場合参考図第4図(B)に示すように、選別盤の上向き行程において下層に沈下した穀物粒の側面を揺寄せ突起の頂端線で支持し選別盤の動きに追従させて、穀物粒を片寄せる機能を果たし、次いで選別盤が下向き行程に復する際に、参考図第4図(C)に示すように、穀物粒を揺寄せ突起の頂端線の支持からの離脱を妨げない機能を果たしているものである。

してみると本件発明の粗雑面を形成する凹凸形状及び第一引用例及び第二引用例の揺寄せ突起を穀物粒との大きさとの関係を加えて具体的に検討すると、両者が穀物粒より大きいか或は同等の大きさの場合でも、小さい場合でも、共に同様の機能を果たすものであり、穀物粒の選別作業で果たす機能は同一である。

三 さらに付言すれば、本件発明の粗雑面の形状は甲第三号証の実施例として図示されているが、その粗雑面の実施例である第6図のa、bの形状は選別盤面より下方に押出して形成されており、この点選別盤面上に起仰角をもって形成した揺寄せ突起とその形状において異なるが、本件発明の粗雑面の場合選別盤の上向き行程において盤面に構成した粗雑面で穀物粒を支持する方法は、穀物粒を壷穴上部の盤面を折曲げた凹凸形状の凹部分或は凸部分何れの部分でも穀物粒を支持し摩擦抵抗を与える機能を有することを考慮すると、壷穴の折曲部分は第一引用例及び第二引用例の揺寄せ突起の頂端線とその機能において同一である。

してみると第一引用例及び第二引用例の揺寄せ突起は、選別盤面上に仰角を以て構成し盤面下層に沈下した穀物粒を支持し穀物粒に摩擦抵抗を与えるが、粗雑面は盤面に設けた凹凸部で穀物粒を支持し摩擦抵抗を与えるので、何れにおいても穀物粒に摩擦抵抗を与える作用において両者に違いがあるわけではない。

なお本件発明の粗雑面の有する作用について今少し敷延すれば、選別盤の揺動速度、振幅の長短、揺動角度の大小及び粗雑面の凹凸形状等によっては、選別盤が水平のまま斜め上下に上向き行程に揺動する場合、選別盤面上の穀物粒は粗雑面に支持せられその位置を保ったままの状態で選別盤と共に移動するが、穀物粒が側壁方向に揺寄せられるのは選別盤の上向き行程が止まり下向き行程に反転する際において、穀物粒は粗雑面から離脱し引き続き揺上げ側に移動しようとする慣性によって選別される場合であり、かかる選別原理は、第一引用例及び第二引用例と同一である。

即ち第一引用例及び第二引用例の場合、選別盤が上向き行程に揺動する際揺寄せ突起は、穀物粒を同位置のまま支持して選別盤と共に移動するが、穀物粒を片寄せるのは選別盤の上向き行程の揺動が停止し下向き行程に反転する際、穀物粒は支持されていた揺寄せ突起から離脱し引き続き揺り上側に移動しようとする慣性によるものである。

この点につき原判決は、本件発明の選別につき「選別盤の上向き行程において、盤面を形成する粗雑面で下層に沈下した穀物粒を支持して選別盤と共に揺り上側に移動させる」(原判決二〇丁裏六行乃至九行)と判示し、また第一引用例の選別につき「揺寄せ突起の頂端線の押送力で下層に沈下した玄米粒を片寄せる」(原判決二二丁裏一行乃至三行)との選別理論のみを判示しているが、粗雑面及び揺寄せ突起何れの場合においても穀物粒を支持し、選別盤の上向き行程の際選別盤の揺動によってその支持した穀物粒を、粗雑面或は揺寄せ突起から離しさらに揺り上側に移動させ或は片寄せる作用のみにより選別しているものではない。

原判決が、選別盤の下向き行程の際穀物粒は粗雑面から離脱すると認識しているのであれば、その反面として選別盤が上向き行程から下向き行程に反転するまでの間、穀物粒は粗雑面に支持せられ選別盤と一体となって移動するが、選別盤が下向き行程に反転し穀物粒がその粗雑面から離脱するときに、初めて揺り上側に揺寄せられていることをも思い至るべきであり、この点でも両者の選別理論に差異があるとの認定は、明らかに誤解である。

四 したがって第一引用例及び第二引用例の揺寄せ突起は、その形状において凹凸面を有する粗雑面の一実施例と言える形状であり、穀物粒を支持或は離脱する作用は、粗雑面が原判決の判示する作用を有することを前提としてもその作用と殆ど同一の作用を有しており、また右検討したように構成及び作用面においても同一であるところ、粗雑面と揺寄せ突起との間に選別理論上違いがあると認定した原判決は、特許法第七〇条の解釈を誤っているものである。

五 原判決は、第一引用例及び第二引用例は穀粒を選別盤の一側端に片寄せる手段として、揺寄せ突起と揺動手段の組合せを前提としており、本件発明の粗雑面と揺動運動との組合せでないので、両者は選別原理が異なる、と判示する(原判決二三丁裏)。

しかし前記のように粗雑面の構造及び大きさは、何等の限定も加えられていないので粗雑面の凹凸形状も任意の設計が可能であるし、又その作用についても特に制限されていないので、その凹凸の形状を甲第三号証のように壷穴でも第一引用例及び第二引用例のように盤面上に突起を形成することも任意に選択出来るうえ、その作用も選択した凹凸の形状により一側端方向に片寄せる作用を有していても、何等差支えないものである。

してみると第一引用例及び第二引用例に記載されている揺寄せ突起は、その構造からして粗雑面の一形状であり、一側端に片寄せる作用を有しているとしても、粗雑面という範囲から排除しなければならない理由はない。

むしろ盤面に凹凸を形成し粗雑面としたことは、当業者にとって常識的技術であり、第一引用例及び第二引用例の揺寄せ突起を凹凸の形状、大きさ等を無限定な粗雑面としても、揺寄せ突起に比し顕著な作用効果は得られないものである。

六 また原判決は、本件発明の効果を誤認し、発明の進歩性判断について経験則に反し、並びに、本件発明の要旨の認定を誤り、特許法第七〇条の規定の解釈を誤った違法があるので、破棄されるべきである。以下、具体的にその理由を述べる。

1 原判決は、「本件発明の選別盤は第一及び第二引用例との間に作用を異にする構成上の差異を有し、右の差異が容易に推考し得ないものと認められる以上、仮に両者の奏する効果の間にさしたる差がみとめられないとしても、そのことのみによって、本件発明の新規性又は進歩性が否定されることにはならないというべきであるから、この点において原告の主張は失当といわざるを得ない(原判決二五丁表七行乃至二四丁裏三行)。」と判示しているが、一方において「たとい第一及び第二引用例が斜め上下の揺動運動を全く排除するものではないとしても」と判示し、第一引用例及び第二引用例が斜め上下の揺動運動が可能な事実を認定しながら、他方において「前掲甲第十一号証によっても、水平揺動させたものは一番口、二番口に籾が混じっているのに対し、揺動角三十度以上で斜め上下に揺動させたものにはいずれも籾が混じっていないことからして、斜め上下に揺動させたものの方が優れた選別結果を示していることが明らかである。(原判決二四丁裏八行乃至二五丁表二行)」と判示し、第一引用例及び第二引用例の選別盤が斜め上下に揺動する場合における選別効果につき触れるこがとないうえ、更に、「前記1(四)において右追試結果(甲第十一号証の)について認定説示したところによれば、本件発明がその選別盤に関する構成により得ている作用効果に顕著性を肯認し得ることは明らかである(原判決二七丁表八行乃至二七行表一一行)。」と判示し、本件発明の新規性、進歩性を肯定している。

本件発明の特徴とするところは、粗雑面よりなる無孔の選別盤を斜め上下の往復動を与えることが、構成上の要点となっていると思われるが、この「粗雑面」は「粗い凹凸のある面であり、それ以上の限定的記載は認められない」ものであり、又第一、第二引用例も「斜め上下の揺動運動を全く排除するものでない」のであって、かかる特徴のない構造と動作の結合によっては構成の新規性、進歩性をみとめることは、一般の技術常識からして困難である。

技術範囲の認定は、請求範囲の記載に基づいてなされるものであり、請求範囲に記載された発明の構成自体が一次的判断の基準になるべきであり、作用乃至効果はその認定を補うものとしての資料となるべきものであるのに、一部実施例の作用の相違から構成の特徴を認め、本件発明に新規性及び進歩性を認めた原判決は、特許法第七〇条の解釈を誤っているものである。

2 他方、発明が類似した公知技術に対して所謂進歩性を有するか否かを判断するに際しては、発明のもたらす効果が顕著であるか否かにより決すべきであることは大審院当時からの判例(大正七年(オ)三七二号、大正七年六月五日)であるところ、原判決の「本件発明の選別盤は第一及び第二引用例との間に作用を異にする構成上の差異を有し、右の差異が容易に推考し得ないものと認められる以上、仮に両者の奏する効果の間にさしたる差が認められないとしても、そのことのみによって、本件発明の新規性又は進歩性が否定されることにはならないというべきである」との認定判断は、かかる判例に違背した違法のものである。

更に敷延すると、発明の進歩性は、発明を構成することの難易の問題である。発明の実体が、発明の「目的」でもなく、また発明の「効果」でもなく、発明の「構成」自体であることから、発明の進歩性を判断するにあたつては、発明の構成を比較し、その難易によって進歩性を判断すべきである。しかし実際問題として、発明の構成上の難易を判断することが必ずしも容易でないことから、発明の目的や効果を参酌することによって、構成上の難易、即ち、発明の進歩性を判断することが一般的に行なわれている。発明の目的は発明の起因であり、発明の効果は発明の結果であるから両者は発明の構成とは密接不可分、あるいは、有機的一体的な関係がある。したがって、発明の構成の難易についての判断は、発明の目的や効果を参酌することによって比較的容易となり、むしろそれにより初めて妥当なものとなるからである。

この目的を参酌するにあたつて着目すべき点は、目的の予測性があるかどうかである。即ち、発明の目的が出願時の技術水準からみて当業者が容易に予測できる場合は、目的の予測性があり、反対に従来当業者が容易に気が付かなかった問題(課題)を新たに見出だした場合は、目的の非予測性があるということができる。目的の非予測性がある場合は、目的達成の手段(構成)にも予測性がないことに帰し、結局、構成の困難性があるということができる。なお目的の予測性がある場合、構成の困難性の有無は、効果を参酌して定めるのである。効果を参酌するにあたつて着目すべき点は、効果の予測性があるかどうかである。 即ち、発明の効果が出願時の技術水準からみて当業者が容易に予測できる場合は、効果の予測性があり、反対に従来当業者が容易に達成できなかった効果を奏する場合は、効果の非予測性すなわち効果の顕著性であるということができる。効果の顕著性がある場合、そのような効果をもたらした構成には、原則として困難性があるとすることができる。

けだし、顕著な効果を奏することができる技術的手段を創作することを目標として、当業者が努力するにも拘わらず、容易にその目標に到達することができない場合において創作し得た構成であるからである。効果が従来技術と同一と認められる場合においても、従来技術と全く異なる解決手段(構成)を創作しているときは、これと同一視すべきでなく、新しい解決手段を提供した点(技術の豊富化)において効果は顕著であるとすべきである(吉藤幸朔著「特許法概説(第八版)」九六頁乃至九七頁参照)。

このような見地から本件発明について検討すると、本件発明の場合には、特許出願前に第一及び第二引用例の類似関連技術が公知文献として存在しているので、目的の予測性がある場合、即ち、課題が公知の状態に該当し、効果においてさしたる差異が無い場合には、本件発明はその目的達成の手段に進歩性がないものとして拒絶されるのが相当であるところ、原判決にはかかる進歩性の判断につき経験則に反し違背した違法がある。

3 また、本件発明の特有の効果を認定するに際しては、本件発明の総ての実施例が奏する効果でなければ本件発明の効果と認定できないところ、原判決は「揺動角三十度以上で斜め上下に揺動させたものにはいずれも籾が混じっていないことからして、斜め上下に揺動させたものの方が優れた選別結果を示していることが明らかである。」と認定判示している。

これにつき本件発明の構成要件の一である「斜め上下に往復運動」との関連について検討すると、この「斜め上下往復運動」には、揺動角度(揺動方向と水平線とのなす角度)が、0度に近い緩やかな揺動角度から90度に近い急な揺動角度まで広範囲のものがあるところ、「揺動角三十度以上で斜め上下に揺動させたものにはいずれも籾が混っていないことからして、斜め上下に揺動させたものの方が優れた選別結果を示していることが明らかである(原判決二四丁裏八行乃至二五丁表二行)」と認定判示し、広い範囲の揺動角度の中で三十度未満の緩い揺動角度では奏さないが、「三十度以上の比較的急な揺動角度」でのみ奏する効果を本件発明の顕著な効果と認定し、進歩性があると認定したことは、進歩性判断についての従来の判例に違背し、特許法第七〇条の規定の解釈を誤り本件発明の要旨の認定を誤った違法があり破棄されるべきである。

参考判決例 昭和五七年(行ツ)一一六号、昭和五八年一月二五日三小判決

昭和三五年(行ナ)一一八号、昭和四四年一〇月二一日東高民六判決他

以上

参考図

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